赤朽葉家の伝説
ああ、この作家はやっぱりすごい。出た当初から評判で、わりと早いうちに(それでも3月に出た3刷でしたが)手元にはあったんですよ。ただ、2段組なうえに300ページを超す(桜庭一樹としては)大作で、なかなか読むモードに入らず、放置していたのですが、ふと思い立って読みはじめたら、とまりませんでした。これすごいわ。思い立った理由というのが、この次に出た『私の男』がまたえらい評判で、それを読みたかったから。それにはやはりこいつを片づけなくてはだめよね、と思ったしだい。ええ、けっこう律儀なんですよ(うそ)。
1953年から現代までが、山陰の旧家に生きる祖母、母、わたしの、3代にわたる女性の視点から、家業の製鉄業の盛衰など戦後日本の歴史を盛りこみながら、圧倒的な迫力で描かれています。ま、いわば大河小説的な世界が展開されるわけですが、そこはやはり桜庭一樹ワールドなんですよね。昭和も20年代後半以降の話なのに、もっと昔の話のような、神話とも伝説ともとれる筆致で描かれているんです。もちろん、山陰の旧家という設定もあるのでしょうが、その独特の描き方はやはりこの人ならでは。
また、色にとことんこだわった言葉選びもすばらしいです。地名や人名のつけかた、登場人物の着ている服、牡丹雪や紅葉、あるいは新緑の山々など自然の描写と、物語のそこかしこに色がふんだんに使われています。
残念なのは、語り手である瞳子(とうこ)の思考や発言が、20歳を過ぎている娘とは思えないほど青臭いというか、幼稚なこと。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』や『少女には向かない職業』の中学生の主人公と変わらないんですよね。変わらないといえば、ラストの着地もこの人らしく、いい意味でも悪い意味でも変わらないなあと。
で、この作品は、去年の日本推理作家協会賞を受賞していますが、えーと、ミステリではないと思います。たしかに謎はあるのよ。でもね、その謎が出てくるのは230ページをすぎてからだし、謎というほどのものでもないんです。それに、最初のほうでひとつ、え?と引っかかった部分があって、けっきょくそれが鍵だったという程度のぬる~い謎なの。だからそっちはあまり期待しないほうがいいかと。
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