« 2008年6月 | トップページ | 2008年8月 »

黒笑小説

黒笑小説 (集英社文庫 ひ 15-8) 今年の集英社文庫のナツイチ企画、マスコットの携帯ストラップがかわいくて、思わず本屋で大人買いしてしまいました。4冊買って見事、レアアイテムのダーク大佐をゲットしたんですが、そのときに買った1冊がこれ。

 そんなわけで中身に関してはあまり期待してなかったんだけど、いやなかなかどうして。けっこうおもしろいんですよ。とくに作家と編集者をそれぞれの視点から描いた最初の4編は秀逸。ノミネートされた賞の結果発表を待つ様子をシニカル描いた「もうひとつの助走」、なんとなく新人賞に選ばれてしまったものの、そのあとがつづかない新人作家を描いた「線香花火」や「過去の人」。どれもご本人の体験が下敷きにあるんだろうなあ。(^^;) それをまた自虐的にこんな話にしたてちゃう東野圭吾の頭のなかは、いったいどうなっているんでしょう?

 わたしが身につまされたのは、同じく作家ものの「選考会」という短篇。リーディングで「なんだ、これ?」と思うような本に当たったとき、もしかして、本当はすごく斬新でおもしろいのに、それを理解できる感性が自分にはないんじゃないかと不安になることがあるんですが、その経験と重なりました。いやあ、これは他人事じゃないですよ。(^^;)

■書誌情報
『黒笑小説』東野圭吾/集英社文庫(2008.04.25発行)
*2005年4月に刊行された単行本の文庫化

| | トラックバック (0)

黄金の羅針盤

Golden_compass『黄金の羅針盤』です。映画じゃないですよ、原作のほうです。先日、図書館に資料を借りにいったら、なんとなく呼ばれちゃったんです。いえ、前々から読みたかったんですよ。児童書にくわしいお友だちが絶賛していたし。いつかは読みたいリストに入ったまま早ン年。そんなこんなでもたもたしてるうちに映画化されちゃって、じゃあ、映画ですませちゃえばいいかーとも思ったんですが、どうもあまり評判がよろしくないようで、やっぱり本かな、と逡巡しているときに呼ばれてしまったというわけ。

 とはいえ、実は最後まで読み通せないんじゃないかととても心配だったんです。わたし、夢がないというか、許容範囲が狭いというか、魔法とかしゃべる動物とか、人間でも動物でもない生命とか、そういう設定がすごく苦手なんです。映画ならついていけるのですが、文字だけだとうまくイメージできなくて。だけど、そんな不安はどこへやら、すっかりハマりました。

 たしかにファンタジーではあるけれど、現実の世界と極端にちがわないから、少女が主人公のフツーの冒険小説として読めるんですよね。主人公ライラが真理計の力を借りながらも、知恵と機転で難局を乗り越えていくという話なので、とっても共感できました。ああ、はやくつづきが読みたいぞ。 あ、映画も見てみるつもり。鎧を着た熊のイオレク・バーニソンの声がサー・イアンと聞いては、黙っていられませんもの。(^^;)

■書誌情報
『黄金の羅針盤』フィリップ・プルマン/大久保寛訳/新潮社(1999.11.05発行)
"NORTHERN LIGHTS/THE GOLDEN COMPASS" by Philip Pullman(1995)

| | トラックバック (0)

運命の書

運命の書 上 (1) 運命の書 下 (3)
 まさか、あのブラッド・メルツァーが、例のあの大ベストセラー本と同じ系統の本を? 最初に書店で見かけたとき、かなりびっくりしました。だってこのタイトル、この装幀、ハードカバーの上下本、訳者があの方で出版社は角川書店……ですもん。『ダ・ヴィンチ・コード』系の宗教や歴史に関する蘊蓄たっぷりのサスペンスかと期待して手に取った読者も多いはず。というか、それを狙ってこんな装幀にしたんじゃないのと言われてもしかたがないかも……。

 たしかにフリーメーソンがちょびっとはからみます。狂信的な男も登場します。暗号解読のシーンもあります。そういう要素をちりばめつつも、ブラッド・メルツァーらしい作品にしあがってます。引退した大統領の補佐官が、同僚を失い、みずからも一生消えない傷を負った銃撃事件の謎に挑むというか、挑まざるをえない状況に追いこまれ、命を狙われながらも真相に迫っていくという、ポリティカル・スリラー系のサスペンスです。蘊蓄とかそういった要素は薄いけど(いいかげんに書いているという意味ではないですよ)、最後まで楽しませてくれるのはたしか。

■書誌情報
『運命の書(上・下)』ブラッド・メルツァー/越前敏弥訳/角川書店(2008.01.31発行)
"THE BOOK OF FATE" by Brad Meltzer (2006)

| | トラックバック (0)

International Thriller Awards受賞作発表

The Ghost Heart-Shaped Box The Midnight Road

 International Thriller Writers(ITW) が主催する第3回 International Thriller Awards の受賞作が発表になりました。

BEST NOVEL
 THE GHOST, Robert Harris

BEST FIRST NOVEL
 HEART-SHAPED BOX, Joe Hill

BEST PAPERBACK ORIGINAL
 THE MIDNIGHT ROAD, Tom Piccirilli

| | トラックバック (0)

CWA賞発表

Blood from Stone Child 44 The Bethlehem Murders (Omar Yussef Mystery Series)

 英国推理作家協会(Crime Writers' Association)主催によるCWA賞の受賞作が発表になりました。おもな部門の結果は以下のとおり。その他の部門および詳細についてはこちらをごらんください。

THE DUNCAN LAWRIE DAGGER
 BLOOD FROM STONE, Frances Fyfield

THE DUNCAN LAWRIE INTERNATIONAL DAGGER
 LORRAINE CONNECTION, Dominique Manotti

IAN FLEMING STEEL DAGGER
 CHILD 44, Tom Rob Smith

THE JOHN CREASEY (NEW BLOOD) DAGGER
 THE BETHLEHEM MURDERS, Matt Rees

THE SHORT STORY AWARD
 "The Bookbinder's Apprentice", Martin Edwards(THE MAMMOTH BOOK OF BEST BRITISH MYSTERIES

 おお、すごく興味のあった Tom Rob Smith の "CHILD 44" がイアン・フレミング・スティール・ダガーをとりましたよ。これ、来月、翻訳が出るんですよね~。いまから楽しみです。

| | トラックバック (0)

のぼうの城

のぼうの城 まさかここまで売れるとはねえ。なんと20万部突破のベストセラーですって。おまけに直木賞にノミネートされちゃって、今月はじめにあわてて買ってきました。当日出たばかりの10刷を。いや、地元民として知っておいたほうがいいかなーという程度のノリだったんですが、いやはや、思いのほかおもしろかったです。

 舞台となる忍(おし)城は、現在は堀の一部しか残っていませんが、周囲を湖に囲まれていたことから“浮城”と呼ばれていたとか、秀吉の軍勢が唯一落とせなかった城だという話は知っていました。でも、でも、秀吉方の総大将が石田三成だったなんて全然知らなかったし、水攻めがおこなわれたことも知らなかった。そんなわけで、とても興味深く読めました。

 地元なので、石田三成が丸墓山古墳にのぼって忍城の様子をうかがったとか、彼が水攻めのために築いた堤防が北は白川戸から南は久下までのびていたなんて描写に思わずわくわく。耳慣れた地名も小説に出てくると、とても新鮮に感じます。想像力を総動員して、当時の風景を一生懸命イメージしながら読みました。

 でも、この小説のいちばんの魅力は、登場人物ひとりひとりのキャラが立っていることかな。一本筋のとおった丹波や、血気盛んな酒巻靭負など、どの人物もイメージしやく描かれています。武士だけでなく、農民までもがとても個性的だし。でも、なんといっても、タイトルになっている“のぼう”様こと成田長親が強烈。いまで言えば天然という感じの城代なんですが、ホントに愛すべきキャラクターです。

 ただし、いろいろ引っかかった部分もあり。もともとドラマの脚本として書いたものらしく、大河ドラマのような説明が興を殺いでいるところが見受けられました。あと、昔の地名にいちいち括弧書きでいまの○○県と説明しているのもうっとうしいなあ。初出だけでいいと思うのに。う~ん、これで直木賞は無理……だよね。きっと

■書誌情報
『のぼうの城』和田竜/小学館(2007.02.03発行)

| | トラックバック (0)

聞いてないとは言わせない

聞いてないとは言わせない (ハヤカワ・ミステリ文庫 リ 9-1) ひー、これはむちゃくちゃおもしろいです。“150分間一気読み!”の帯に偽りなしですよ。わたしはまとまった時間がなくて、何回かに分けて読みましたが、絶対に一気に読んだほうがおもしろいと思う。

 もうね、冒頭の、ひとりの若者が農場を訪れるシーンからぐっと引きこまれます。雲ひとつない青空、ゆらゆらと熱気がたちのぼる地面、どこまでもつづく平坦な土地。絵に描いたようなテキサスの片田舎の描写だけで、ああ、これはわたしの好きなタイプの小説だと直感しました。若者と農場の主である女が男女の関係になってからは怒濤の展開。想定外の展開に呆然としながら読み進めた先に驚愕のラストが待っています。

 無駄な描写がひとつもないという評は耳にしていましたが、まさにそのとおり。最後まで読んで結末がわかったあとで、もう一度最初から斜め読みしてそれを実感しました。ひょえーと思ったラストも、ちゃんとそれを示唆する描写がそこかしこに埋めこまれてるんですよね。

 物語だけでなく、どこまでも平坦な土地がつづくアメリカの風景をも楽しめて、ひさびさに興奮するミステリに出会った気分です。たった286ページでこれだけの物語が語れるなんて、ホントすごいと思いました。

■書誌情報
『聞いてないとは言わせない』ジェイムズ・リーズナー/田村義進訳/ハヤカワ・ミステリ文庫(2008.06.15発行)
"DUST DEVILS" by James Reasoner (2007)

| | トラックバック (0)

なぜ絵版師に頼まなかったのか

なぜ絵版師に頼まなかったのか いやはや、このタイトルには思いっきり笑わせてもらいました。海外ミステリ好きなら、クリスティーのあの作品のもじりだとぴんときますよね。この掲題作を含め、ハリイ・ケメルマンやトマス・ハリスの名作をもじったタイトルをつけた5作を収録した連作ミステリです。

 表紙にイラストで描かれているエルウィン・フォン・ベルツをはじめ、ナウマンやモース、フェノロサ、ボアソナードなど、外国から招聘されたお雇い外国人が登場し、松山から出てきたベルツの書生、葛城冬馬とともに、東京で起こった不可思議な事件にいどんでいくのですが、そんな重厚な内容ではありません。さらっと読めて、ちょっとした暇つぶしにはぴったりという感じ。

 実際のベルツがどんな人だったのかはわかりませんが、花瓶をとっくりがわりにして日本酒を飲み、金襴緞子の振り袖を部屋着にしている、日本かぶれのヘンな外国人として描かれています。でも、さじ加減が絶妙なんでしょうねえ、それがちっともばかばかしくなっていないんです。彼がときどき冬馬に洩らす言葉は含蓄が深く、いろいろと考えさせられる内容でもありました。

 実際、ベルツという人は当時の極端な欧米化政策に疑問を持っており、過去の日本を野蛮と切り捨て、ヨーロッパが何世紀にもわたって構築してきた文化や学問の上っ面だけをすくい取るような姿勢を厳しく批判していたようです。いまの日本は、彼が100年も昔に予言したとおりになっちゃってますよねえ。

■書誌情報
『なぜ絵版師に頼まなかったのか』北森鴻/光文社(2008.05.25発行)

| | トラックバック (0)

« 2008年6月 | トップページ | 2008年8月 »